Campus Plants _ Camellia wabisuke

ワビスケ /侘助


Teaseae / ツバキ科
photo by mich.katz


春の訪れ第三弾.今日はパステルピンクの花びらが美しいツバキです.


ツバキの園芸品種の中でも可憐でひときわ小さく,半開,一重の花を咲かせる品種群があり,それを‘侘助’ツバキと言います.研究室のほ場に研究用のワビスケ侘助)品種のコレクションがありますが,その中から今日は ‘有楽(太郎冠者)’という品種を紹介しましょう.


‘有楽’という品種名は,織田信長の弟で茶人の織田有楽斎にちなんで付けられた名前と言われます.また,ワビスケという特徴的で,可愛らしい名前の由来は,茶人千利休に仕える下僕『侘助』が育成したからとか,秀吉による朝鮮出兵のさいに『侘助』なるものが持ち帰ったからとか諸説あるようです.しかしながら,いずれの説とも真偽のほどは不明です.


名前の由来同様,侘助ツバキの由来も謎が多く残されています.日本固有の品種群でありながら,いつ頃,どこで,どのようにして成立したのかを特定できない品種が多数あるのです.


特に‘有楽’の場合,花の形は日本の野生のツバキ,ヤブツバキに似ているのですが,パステルピンクの花が咲く原種は日本にはありません.ツバキ属植物の原産地中国には‘有楽’のような花色の原種があるので,中国産ツバキと日本のヤブツバキとの雑種という説があります.


ところが,国内各地に推定樹齢数百年とみられる‘有楽’の大木が存在します.もし,種間雑種説や推定樹齢が真実だとすれば,異なる種類のツバキを人為的に交配し,育成した雑種を挿し木や接ぎ木で増殖する技術が,安土桃山〜江戸時代の頃にすでにあったということになります.私たちの研究室ではその仮説を検証するための研究が行われています*1が,まだすべての謎を解き明かすまでには至っていません.


ところで,ツバキは外国人にもポピュラーな園芸植物であり,国外で育成された園芸品種も多数あります.しかしながら,外国人が好むツバキの花は概して派手で大きく,侘助ツバキの花とはほど遠いものです.外国のツバキ品評会ではその派手な花だけを並べて愛でると言います.


一方,侘助ツバキは,日本人独特の「侘」「寂」の精神世界における美的感覚を象徴する花として,古くから茶道の世界で愛されてきました.小さな侘助ツバキを一輪だけ「野にあるように生ける*2」といったイメージでしょうか.


「一日一植物」は「一日一輪」.「侘・寂」の美をこれからも追い求めます.


by koma & mich.katz