一期一会


宗像植物友の会の会報「かくれみの」37号が届く。


50年の歴史を持つ由緒あるこの会の例会学習会にて「ユリと植物生態学」と題して講演させて頂いたのが昨年の2月9日のこと。その講演会の要旨が例会記録のトップに写真付きで掲載されていた。


その記事を読んで、予期せぬ出来事に驚喜した当時の記憶が蘇った。講演の中で、私は、市のシンボルであるカノコユリの生態に関する研究に着手すると同時に、市民の手によるカノコユリ保全のしくみ「カノコユリ里親制度」を立ち上げようとしていることを話した。それが参加者の大いなる共感を誘い、会場に持参していた宗像エコバッグ(保全基金をつくるためのグッズ)をすべてお買い上げ頂いた。ほんとうに有り難かった。


会報には例会の報告の他に投稿記事がある。短歌、俳句、随想、植物解説などその内容は多岐にわたり、豊富な経験と知識にもとづく記事は大変示唆に富む。投稿記事の末尾には、昨年お亡くなりになった会員の追悼記事が掲載されていた。そのひとつに私の目が釘付けになった。

痛惜「花じいさんと」と呼ばれたかった夫


主人は、平成21年2月23日、65歳で逝ってしまいました。20日に脳梗塞で倒れて、一言も言葉を交わさないままの別れでした。


昭和44年に結婚して、休みの日の散歩のときには、薔薇やチューリップぐらいしか知らない主人に、いつも道端の草花の名前を教えていましたがちっとも覚えません。それでも懲りずに、ちょうど植物に油粕を与えるように、20年ほど教え続けた頃、知らないままにいくらかは覚えていたのでしょう、職場で他の人より知っていることが判り、快感を覚えたらしく、散歩の折に私に訊くようになったのです。


そうするとしめたもので、植物の名前を知っていると山歩きをしても余計に楽しいということが判る。そして退職して一緒に「植物友の会」入会。皆さんに良くしていただいて、私の予想以上に馴染んで毎月の例会を楽しみにするようになりました。


庭の花づくりにも熱心になり、他人が尋ねるからと植木には名札をかけたり、3年ほど前、玄関の前の石垣の上の斜面に何か花の咲く木を植えようと思い立ちました。市が管理している土地で葛の根が張り巡らされているようなところですが、「自分で管理するから植えさせてくれ」と電話して、草を刈り、実家の山にあった薮椿や南天百日紅、隠れ蓑、躑躅、青木さんにもらった紫陽花、能古島の芙蓉、買ってきたブルーベリーなど何でも植えました。すぐに葛の蔓が伸びてきて巻き付くので、何度も草刈をして……。通りがかりの人が褒めてくださるのが嬉しくて、「花じいさん」と呼ばれたくて……。


そして今年の夏は、能古島から失敬してきた種子から育てた芙蓉が初めて花をつけ、五本の木に毎朝150個ほどの花が咲き、玄関の扉を開けるのが楽しみでしたが、主人はこれを見ずに逝ってしまって残念でなりません。


今年の2月9日、例会は比良松先生の講演でした。セヴァン・スズキというカナダの12歳の少女の講演文章を、主人に押され、先輩方を差し置いて私が朗読しましたが、主人はそれをとても喜んでくれ、上機嫌で帰りました。


友の会の皆さんとはそれが最後となりました。ほんとうにお世話になりました。主人に代わりましてお礼申し上げます。

09年2月29日、葬儀が行われました。大柄で快活、友の会の総会議長として大きな声で総括されることも数回、好評でした。西南大学野球部のバッテリーだった学友が、「大きな的で投げやすかった」と弔辞を読みました。


確かに私は、あのとき、この女性に朗読を依頼した。
その時の感動を私はこんなふうに書いた。

……そしてカノコユリプロジェクト。
郷土の植物を100年先の子どもたちに伝える。
子どもたちの感性や行動力を私たち大人が見習う。
しっかりとメッセージを伝えると、会場から自然に拍手が沸き上がる。
私の話しに拍手なんて……。
初めての体験である。


最後はセバン・スズキの伝説のスピーチの朗読で締めくくろうと思い、最寄りの参加者に朗読をお願いしようとすると、「朗読の会の会員がいますよ」とMさん。
それは願ったり叶ったりと、その女性に朗読を依頼。


これが良かった。
声の美しさ、感情の込め方。
まるでセバン・スズキのスピーチをその場で聞いているような感覚だった。
ぶっつけ本番なのに。
多数の方々が涙。
そして頼んだ私も涙。
朗読で泣かされたのはマダムミチコ以来だ。


http://d.hatena.ne.jp/mich_katz/20090209


あのときのことを、ご主人がそんなに喜んでおられたなんて……。


人生は一期一会。


ご主人さまへ
あのとき、奥さまの素晴らしい朗読が、私の拙い話をどれだけ救ってくれたことでしょう。
躊躇された奥さまの背中を押してくださって、ほんとうにありがとうございました。
ご冥福をお祈り申し上げます。