ヒガンバナ

mich_katz2005-09-14

夕方,地元のテレビ局の番組製作担当者から電話がかかってきた.
「あの〜,ヒガンバナの食べ方を教えて頂きたいのですが〜」
「はあ?」
なんでも,ヒガンバナの球根からでんぷんを取り,お団子を作って食するという企画らしい.
「確かに昔食糧難だった頃,ヒガンバナの球根が食用にされたということは聞いたことがありますが,球根にはアルカロイドという毒性分が含まれているので,普通は食べないと思いますよ.私も含めて身近なところで食べたという話は聞いたことがないです.アルカロイドは水に晒すと溶け出してなくなるとはいいますけどね〜.どれくらい晒せば良いかなど技術的なことは実際にやった人じゃないと分かりませんよ.」
「それをレポーターと一緒に番組に出て専門家として指導して頂きたいのですが.」
「それはちょっと無理ですね〜.私は食べた経験がありませんから.」
「そこをなんとかできませんか?」
「無理ですよ.万が一の事故に対する責任が持てません.最近,山野菜ブームですが,毒性分を含む種類を食べて中毒になる事故が増えているそうですし,ヒガンバナスイセンの食中毒では,嘔吐や下痢症状がひどく出ると専門家が書いてますから,よほど経験のある方がサポートしてくれない限り,やめられた方が無難ですよ.残念ですが,私の近辺にはそのような心当たりがありません.」
などと三度にわたる電話のやりとりが続いた.先方は私が専門家ということで執拗に出演をせまってくるが,ヒガンバナの専門家でもなく,その球根を食した経験のない私にはとても無理な話である.ヒガンバナを研究する専門家でも無理な話かもしれない.
この企画の背景についてはほとんど説明がなかったが,花の季節が近いヒガンバナについてインターネットか書物などで調べているうちに,昔食料とされたという記事を見つけて番組にできると思ったのかもしれない.しかし,インターネットや書物の情報は,著者本人の経験に基づかない情報も多く含まれいる.
今回のやりとりを通して,私自身も如何に経験に基づかない多くの知識で思考しているかを自覚した.確信を持って責任ある発言や行動を起こすには,やはり経験が大切だ.研究,教育,農業,環境保全,あらゆる場面で共通している.ユリの球根なら食べた経験があるのでコメントやお手伝いできるのだが・・・.