Prunus armeniaca _ Campus Plants

アンズ / 杏


Rosaceae / バラ科
decorated by simon, photo by mich.katz


名前はお馴染みですが,意外と利用方法が意識されていない果実ではないでしょうか.


中国では,モモ,スモモ,クリ,ナツメと並ぶ重要な果実(五果)として紀元前から栽培されてきましたし,日本,朝鮮半島,ヒマラヤ地方,中央アジアなどの近隣諸国でも古くから栽培されてきました.最も種類が豊富な中央アジアが原産地ではないかと考えられています.


果実が甘いのは原産地からヨーロッパやアメリカに伝わったヨーロッパ系品種群だそうで,カリフォルニア地方を中心に生産され,乾果,ジャム,缶詰に利用されています.一方,中国や朝鮮,日本で改良された東アジア系の品種群は,酸味が強く日持ちしないため,果実を利用する場合はシロップ漬けにすることが多く,欧米ほど果実そのものの用途は多くないようです.


ただし,東アジアでのアンズの利用は,果実の利用にとどまりません.アンズは,むしろ,杏仁の原料としての利用の方が重要と言えるようです.


杏仁の「杏」はアンズ,「仁」は種子の中身.つまり杏仁とは杏の種子の中身(胚乳)部分で,中国では,心下膨満(胃周辺の膨満感),浮腫(むくみ),疼痛(ずきずきとする痛み),咳,喘息,呼吸困難に効く漢方薬として非常に古くから利用されてきました.同時に,杏仁には脂肪分が豊富に含まれており,栄養源としての効果もあります.


杏仁と言えば中華料理のデザートに出て来る「杏仁豆腐」.杏仁豆腐は,杏仁の粉(杏仁霜)を水でといて甘味を付け,それを寒天やゼラチンで固めたもの.つまり,杏仁豆腐のあの独特の香りこそ,アンズの種子成分によるものだったのです.


独特の香りを放つのはアミグダリンという青酸配糖体の一種.これは近縁作物のモモ,スモモ,アーモンドの種子にも含まれています.テレビのサスペンスドラマなどで,青酸毒を使った殺人事件の被害者の口から「アーモンド臭」がするとか言っていますが,実はこの青酸配糖体特有の匂いのことだそうです.「アーンモンド臭」よりも「杏仁豆腐臭」と言ってもらった方が多くの人にはピンとくるのかもしれませんね.


それにしても,食後のデザートにまで健康を意識した素材を用いるところが,「医食同源」を重んじる中華料理の奥深さ.杏仁の薬効を知れば,ダイエットのために食後のデザートを控える人も杏仁豆腐にはついつい手がでてしまうのではないでしょうか.


by simon & mich.katz

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