Primula sieboldii _ Campus Plants

サクラソウ / 桜草


Primulaceae / サクラソウ
decorated by takin, photo by mich.katz


今日は,日本の伝統的園芸文化に触れてみましょう.


サクラソウは,国内では九州の高原地帯から北海道の低地にかけて自生し,海外では朝鮮半島から中国東北部,シベリア東部まで分布する多年草です.


属名Primula(プリムラ)は,早春にどの花よりも先駆けて咲くことを意味しますが,ガーデニング愛好家がこの名前を聞いて想像するのは,中国の原種から改良されたP. malacoides(マラコイデス), P. obconica(オブコニカ),P. polyantha(ポリアンタ)の方かもしれません.


それら海外で育成されたプリムラ類に比べると,日本のサクラソウ園芸品種の花はそれほど派手でなく,淡いパステル調の色のものがほとんどです.これも,桜をこよなく愛でる日本人の感性でしょうか.


今日,栽培されるサクラソウの園芸品種は約300.そのうち100品種が江戸時代から伝わるとされます.これらの品種の多様性にはほんとうに驚かされます(こちらのサイトを参照してください→http://www.sakurasou.jp/newpage76.htm).


どうです? 300年以上も前の時代に,たった1種の野生種から改良されたとは思えないほど多彩な顔ぶれでしょう.種名sieboldiiの名付け親となったシーボルトは,当時,日本のサクラソウ品種の豊富さを目の当たりにして驚いたのではないでしょうか.


近年の遺伝子レベルでの研究によれば,サクラソウ園芸品種の多くが,荒川流域を主とした関東近郊の野生集団から育成されたということです*1.江戸の人々がサクラソウを深く愛していた証拠でしょう.また,関東地域集団だけから300種類以上の多彩な顔ぶれのサクラソウ園芸品種が育成されたのだとすれば,300年以上に渡ってサクラソウの品種改良に携わったひとたちが,如何に熱心で目が肥えていたかが思い浮かばれます.


ただ残念なことに,サクラソウ絶滅危惧種です.サクラソウを自然状態でみることはだんだんと難しくなってきています.私の住む九州では,野焼きを今でも行っている阿蘇・久住地域の高原地帯で見られますが,まとまったサクラソウの群落に出会うことはほとんどありません.園芸目的の採集が過度に行われたり,日当りの良い草地を維持するための管理(野焼きや下草刈り)が人手不足のためだんだんと行われなくなっていることが原因であると考えられています*2


多彩な色や形の花を生み出すもととなったサクラソウの原種が消滅して行くことは,日本独自の園芸文化の喪失を意味します.それは大変残念なことです.


もし野生のサクラソウをみつけたら,決して掘り取ったりせずに,優しく見守ってやってください.


by mich.katz

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