“弁当の日の先生”がやって来た! _ My Life


“弁当の日”でなくて、“弁当の日の先生”、竹下和男先生が隣町へやって来られた。平成19年度遠賀郡PTA連合会研究集会。


年間講演が80回を超える現役の校長先生なんて私は聞いたことがない。そういう異常さが、講演を聞く価値があることを暗示している。万難を排して夫婦で講演会に参加した。


今回の演題は、「人はなぜ子育てに悩むのか」。


話の冒頭で竹下先生がおっしゃった。「そんなタイトルなので、私の代名詞である“弁当の日”の話は最後に少しだけします。」と、自ら“弁当の日”の話を殆ど封印された。


話の大筋は、子どもたちを育てる上で大切な親と大人の視点について(末尾に列記)。香川での“弁当の日”エピソードを比較的よく知っている私にとって、“弁当の日”を生み出した竹下先生の子育て思想は、大変貴重で示唆に富む内容だった。およそ90分のお話からB5ノート約3ページ半にも及んだ速記メモを自宅で見返しながら、改めて、話の内容の濃さに感嘆する(末尾に列記)。



その中でも、私の心を強く捉えたある親と保育士のお話し。


「ある保育園でのお話です。子どもを迎えにきた母親が、その子がうんこをしていることに気づきこう言ったそうです。『まだ保育時間内だから、おむつ替えてくれる?』と。そう言って保育士に子どもを返したそうです。

次の日、そのお母さんが子どもを保育園へ連れてくると、おむつが昨日のままでした。昨日と違うのは、おしっこやうんこをたっぷりと含んでぶらさがっていたことくらいです。保育師さんは、あきれながらも、その子のためにおむつを替えてやるしかありませんでした。」


現代の日本社会のゆがみを如実に伝えるエピソードである。保育を“サービス”としてしか捉えられない大人の独りよがりの考え方を垣間見ることができる。そこに子どもの気持ちや視線に立てる“親らしさ”、“大人らしさ”は感じられない。


このエピソードを含めご自身の様々な経験に裏打ちされた思想から、竹下先生は、親がどんなに忙しくても、子を“預けっぱなし“にせず、いつでも子にとって最も“親(ちか)しく”、いつまでも“尊敬される”人であるべきだという、大切なメッセージを伝えてくださった。そして私は再認識した。働く親が、健全な親子関係に育むためには、家庭以外の様々な人とのコミュニケーションや絆を大切にしながら、自分や我が家に足りなかった知恵に気づき、親自身も育っていくことが大切なことを。そして、そこに共同の子育てを考えるヒントがあると。


「子どもたちは育てたように育つ。体験したこと、見たこと、聞いたことしかできません。大人たちの方がしたくないと思った瞬間に、できない理由をいくつも探している。できる方法を探してもらいたい。子どもたちは、いずれ一人で生き、そして、育てる側に回っていく。大人に必要なのは、その自覚です。」


私の中に染み込んでしまった内田先生の言葉が竹下先生のメッセージと融合していく。


講演後、先生にお会いして、感想や近況を述べたいと思った。しかし、直後に、今回の企画関係者の方々に連行され、何処へか行ってしまわれたとのことだった。残念。


まあ、近い将来、私が先生の講演会を企画してお呼びすることができるのなら、それで済むことかもしれない。先生のお話はもっと多くの親たちに聞いて頂きたいから。<子どもたちの“聴力”の問題>

  • 最近の子どもたちは、“音”と“言葉”を区別する能力が落ちてきている。
  • 大学生が、先生の前に並び、前の人と同じ質問を繰り返す。一人ずつ指示しなければ動けない小学生。クラスの先生が大きな声で注意しても私語が治まらない。こうした事例がそれを物語る。
  • 人間は、胎内で、言葉とそれ以外の音を区別して聞いている。ex.貿易商社に務めるフランス人が出産した子どもが英語に対してだけ反応していたという事実。
  • 赤ん坊は、話しかける人の表情の動きを読み取りながら、言葉を聞いている。
  • 言葉を介したコミュニケーション力は、子どもに語りかけるときに形成される。
  • かつて、生後1年くらいに聞く声は、家族の声だけだった。しかし、現代ではあらゆる音が赤ん坊を取り囲んでいる。
  • テレビやラジオからの声は音として処理されている。
  • “ながら授乳”やテレビやビデオに子守りをさせることの危うさはそこにある。


<親と子の絆>

  • 赤ん坊の泣き声は少しずつ異なる。良く聞けば、何を訴えているかが分かる。
  • 幼児の泣き声に合わせて反応してくれる人が、最初の“親(ちか)しい人”となる。
  • 紙おむつの性能向上、塾弁(塾で出される夕食)は、親が親しい人となる機会を殺いでいる。


<模範と模倣による人間の社会化>

  • ヒトは本能でなく、“模範を模倣すること”によって、社会化していく。
  • “しきたり”や”ことわざ”には、経験によって築かれた、子の社会化に必要な模範が溢れている。
  • 秋田の“なまはげ”にそれを見ることができる。
  • 親の言うことを聞ける子は先生をの言うことを聞く子に育つ。先生の言うことを聞ける子は社会や組織のルールや規則を守る子に育つ。
  • 子どもは自分の周囲にいる者を奴隷化しようとする。これに気づかない親が増えている。
  • 「今晩何食べたい」と子どもに聞く勿れ。
  • 娘と友達になりたいという父親。それは、ありえない話だ。


<弁当の日>

  • “カ・ゾ・ク”を“家族”にするために。
  • なまはげ”が居ない日本社会に模範をとりもどすために。
  • 物質が豊かな現代において、あえて、欲しいものが足りない状況を作り、譲り合いの気持ちを育てる。