恐るべき共進化


20012000年3月。
私は南アフリカの砂漠でこの花に出会った。


何か変。
どこ?


そう、花の後方でまるでネズミのシッポのように突っ立ったもの。


実はこれ、もとは花茎。
花茎上部の花が脱落し、花茎下部の花だけが残ってしまったのだ。


だれかのいたずら?
違う。
では、どうやって? 
何のために?


2005年、その答えが世界に紹介された。

Nature 435 (May 5): 41–42


そう。
Babiana ringensというこの球根植物は、
花を捨て、
送粉者である鳥のために止り木を作った。


一番右の写真を見て欲しい。
この株は止り木が長過ぎるために、
鳥は、中央の写真のような体勢で止まることができず、
地面に降りて蜜を吸っている。


しかしこの状態だと、
上に突き出た雌蕊や雄蕊に鳥の身体が触れないため、
受粉が成立しない。
つまり、
鳥が蜜を吸いやすい体勢で止まれる形やサイズの止り木でなければ、
この植物は子孫を残せない。


写真とものさしと、そして自然の中に潜む神秘に反応する研ぎすまされた感性。
私は、この研究からフィールドワーク研究の醍醐味を改めて感じた。
こういう研究ができる研究者でありたいと思った。


私は、このときの驚きと感動を共有するために、いとエコフェスタを抜け出し九州大学博物館へ向かった。


この日、博物館では「植物の世界〜お花畑から遺伝子まで」と題した公開講演が開かれており、その分野の第一線で活躍される3名の学外ゲストと大学関係者や一般の方々が、美しい映像や超マニアックな映像を見ながら植物を愛でていた。そこに私は、九大からのとっておき映像プレゼンターとして参戦。


私の出番となり、植物愛好家が多数集う会場にこの止り木植物の映像が映し出された瞬間、会場にどよめきが起こった。


「なんじゃ、こりゃ?」「えっ、どうなっとるの?」とゲスト講師たちも驚く。


「……というとってもふざけた植物なんです。」植物の説明が進むと、会場のどよめき声が感嘆の声に変わっていく。次のスライドへ移るのを躊躇するほど、なかなかおさまらない感動の余韻。


これほど多くの感動を与えられる研究ってすばらしい。
そう思った。


そして思った。
私もいつかきっと……。