変わりゆく長寿の島


徳之島で講演。
会場は伊仙町ほーらい館(http://hourai-kan.jp/)。
昨年8月にオープンしたばかりのピカピカの施設だった。


徳之島は長寿で有名な島だ。
男性長寿の世界記録、120歳の天寿を全うされた泉重千代さんは、この町の住民だった。
人口7350人の町に100歳以上が17人、90歳以上が194人。
人口10万人当たりに換算すると、100歳以上が231人となり、これは日本全体の25人をはるかに上回る。
出生率も2.42で、全国平均(1.31)の約2倍で全国トップである。


「長寿と子宝の島」徳之島。


講演会場「癒てぃな(ゆてぃな)」ホールのステージでは、私の講演に先立ち長寿表彰がおこなわれた。
100歳を超えて今もなおご健在の町民へ、地元の小学生たちが表彰状を手渡した。
大人から子供まで、町全体で長寿を祝うその様子は、町民一人一人がお互いを大切にしようという気持ちが感じられる。


賞状を受け取った男性が、長寿の秘訣を聞かれ、「なんでもよく食べることです」としっかりとした声で答えた。
そう言えば、先日、今年で102歳になる私の祖母に会うため、大学で採れた種なしブドウを持って訪問した際、「ブドウ、食べれますか?」と訊く私に対し、祖母の介護をする叔母は「“うな丼”を毎日食べるから平気よ」と言った。


やっぱり「食べることは生きること」である。


しかしである。
その島に異変が起きているという。

徳之島での健康調査では、若い世代に本土の生活習慣や食べ物がどっと入り込み生活習慣病が広がり、早世が増えて、平均寿命が下がっている現実があきらかになったからだ。保健センターの調査では、すでに1993年に、若い世代の早世が浮かびあがった。徳之島の30代、40代は、食事での野菜の激減、喫煙・飲酒・ドリンク剤・清涼飲料水の増大、車社会の運動不足という傾向から生活習慣病が増大し、結果的に平均年齢で長寿年齢を下げている。このままいけば長寿者がいなくなるおそれもある。

 平成8年度から12年間の5年間における年齢別SMR(標準化死亡比:数字が大きいほど死亡率が高い。全国を100とする)では、伊仙町は30歳から44歳では352と3倍近く、45歳から64歳では138もなった。30代、40代の健康調査で(1709名中男女各100名を無作為抽出。102名回答)で、肥満者(BMI:25以上)の割合は、20歳から60歳男性では、44・7%と全国平均24・3%のほぼ倍。40歳から60歳までの女性は41・5%で、全国平均25・2%の1・5倍近いのである。
http://www.banraisya.co.jp/kanamaru/yurachi/index.php?&no=084


「島には自動販売機が多い」。


小学校の先生や環境省の研究員からそんな言葉を聞いた満仁美さん(現在、伊仙中学二先生)は、小学6年生の時(H18)、伊仙町の飲料水を販売している自動販売機の台数を調べた。
人口7780人の伊仙町に212台の自動販売機があることがわかった。
37人に1台の割合である。
日本全体では、人口1億2780万人に対して販売機227万台で、56人に1台。
伊仙町では人口当たりの飲料自動販売機数が日本全体平均より1.5倍多いということになる。


「畑しかないところに自動販売機があり、とてもびっくりした」と仁美さんは調査後の感想を書いた。


子供26人と大人26人に仁美さんがおこなったアンケート調査では、1日5本もジュースを飲んでいる人が居ることや、69%の子供が、炭酸飲料やスポーツドリンクなど、お茶以外の甘い飲料水を飲んでいることも分かった。町内の子供(中学生1年)の平均虫歯数は鹿児島県平均よりも多く、40歳以上の町民のうち「太り気味」、「太り過ぎ」の割合が鹿児島県全体よりも多い原因が、糖分含量の高い清涼飲料の摂取量の多さにあるのではないかと仁美さんは考えた。


生まれ来る子宝に100年先の長寿が約束されるかどうかは、日々積み重ねられていく食事次第。
あたりまえだけど、あたりまえじゃなくなりつつあるわたしたちの現実。


この町のデータは、そんなことを再認識させてくれた。