宝石のつぶやき


土佐の宝石探し、2日目。


陸の孤島と呼ばれる高知県は、少し足を伸ばせば深い山へと分け入ることができる。


「落石注意」と書かれた標識が連続する細い山道。
落石だけならいいが、こんなことだけは頭上で起こって欲しくない。


麓の集落を通り抜け、人気のない山道を進むこと30分。
なななか鹿の子百合を見つけることができない。


「今日はハズレたか?」
そのような不安がよぎった時、
10m以上はあると思われる、要塞の壁のような断崖にぶら下がる、
鹿の子百合の群れが視界に飛び込んできた。
この二日間、高知で見た中で最大級の群落だ。


美しい宝石を支える茎が、
まるで滝からほとばしる水しぶきのように曲線を描き、
山肌のあちらこちらから伸び出ている。


実は、高知に自生するカノコユリは、分類学的にはタキユリと言い、カノコユリの変種。
鹿の子百合たちが好んで生えるこのような崖のことを土佐では“たき”と称することに因む。



崖の直下に歩み寄ると、美しさとたくましさを兼ね備えた花々がこちらを向いている。
「私たちがあなた達の手が届かないこのような場所に居るのがなぜだかわかってらっしゃって?」と意味ありげにつぶやいているように私には見えた。


和名:カノコユリ
学名:Lilium speciosum
環境省レッドリスト:絶滅危惧II類