棚田でお仕事

mich_katz2005-04-30

棚田の植物調査のため星野村で3日間過ごした.昨日(調査3日目)の朝,宿泊地の村のキャンプ場では,道路にテントが並ぶ.テントの脇に星野村ツツジ祭りと書かれた幟(のぼり)が風に翻る.村の農産物のツツジの苗を販売する出店だ.世間は連休に突入していることを知った瞬間だった.それくらい,調査期間中は脳が世間から隔絶され,朝から晩まで棚田の生き物しか見ていなかった.
男どもが4人.ご飯とみそ汁で朝食を手短に済ませ,お昼ご飯用のおにぎりを握って棚田へ向かう.日が高いうちは棚田を這いずりまわり,普通の人なら見過ごす小さな植物まで丹念にリストアップする.標本用の植物も採集する.村役場で用意して頂いた地図とGPS(車のナビと同じく人工衛生からの信号を捕捉することによって現在地を知ることができる装置)で調査ポイントも記録する.棚田やそこに棲む生き物の生態写真も記録する.ついでに(個人的な趣味だが)調査の途中で出会ったは虫類や両生類もリストアップする.端から見ると棚田で楽しげに遊んでいるように見えるかもしれない.しかし,実際にやってみると単調な仕事で,決して楽ではない.
本調査は,星野村の棚田保全に関するプロジェクトの一環として進められている.環境創造舎の代表ゴーシ舎長が初日から1泊2日で同行してくれた.宿の手配や棚田付近の地図の調達,それに,夜食の調達まで様々な雑用を一手に引き受け,単調な仕事で退屈しない様にと我々をバックアップしてくれた.そんな心遣いがとても嬉しい.
日が暮れて宿へ戻っても仕事は終わらない.夜の仕事は1時間でも早く終わらせないと次の日の調査に影響する.必然的にカレーライスなど調理に時間がかからない献立で夕食を作る.
夕食を済ませると直ちに採集した植物を標本にするための下仕事.半分に切った新聞紙に,採集順の通し番号をふり,図鑑で種名を確認しつつ植物を挟んでいく.ただ挟むのでなく,乾燥した後でも花や葉など形態の細部が確認できる様にきれいに挟む.調査地点ごとにリストアップした植物名はその日のうちにパソコンで整理する.記憶が新しいうちにデータを整理することはどんな研究でも重要だ.
夜も更けると昼間の蓄積された疲労のため眠気が襲ってくる.「おやすみ」の声をかけ合うこともなく,皆いつの間にか眠りにつく.
翌朝には朝食を作りながら,植物の水分で湿った新聞紙を新しい新聞紙に取り替える.乾燥が早いほど良い標本になるから.
実質2日間の調査時間で棚田とその周辺の杉林や雑木林で18地点の調査を終えた.1時間に1地点のペースだ.初回の調査にしてははかどった.200以上の植物種をリストアップした.わずかだが希少種も発見した.
棚田には景観を保全する役割だけでなく,棚田の営みに関わって生活してきた生き物を保全する役割もある.われわれの調査によってそれが証明され,棚田を保全する意義が明確になれば嬉しい.そんな思いを胸に,今年の夏と秋,同じ地点で見落とした種や同定不可能だった種の再調査に出かける.