阿蘇の草地

mich_katz2005-09-21

阿蘇雄大で美しい草地は,牧畜を営む農民の手によって維持されてきた二次的自然である.その草地が,今,消滅の危機にさらされている.
地元の畜産農家人口が,高齢化のためここ5年ほどの間に3分の2まで減少し,草地を維持するための野焼きができず,放棄された草地が増えてきているのだ.この先,さらに高齢化が進むと,地元の畜産業に携わる人は,さらに2分の1減ると言う.
草地の減少と荒廃に歯止めをかけるため,阿蘇グリーンストック*1や九州バイオマスフォーラム*2など,地元ボランティア団体により,野焼き・輪地切り支援,赤牛オーナー制度,草資源のバイオマスエネルギー化といった様々な取り組みが行われている.
今回私が参加した研究会では,そうした取り組みに対し環境直接支払い(国・地方公共団体などから環境保全的経営に取り組む生産者に対して直接補助金を支払う制度)を導入する方策を議論した.経済や畜産(草地)を専門とする有識者より様々な意見が出され,制度そのものを知らなかった私にとって大変刺激になったが,知識不足のため,フォローできない部分も多々ある.

研究リーダーのY教授がすべての参加者にコメントを求められたので,私は,直接支払いとは「直接」関係ないかもしれないが,園芸学的な立場から阿蘇の草地保全の方策のひとつとして以下のような意見を述べた.
阿蘇の草地にみられる草花は園芸的にみて魅力的な資源である.サクラソウ,ハナシノブ(右上写真),ヒゴタイ,ヤツシロソウ,マツモトセンノウ,ヒメユリ,コオニユリ,ワレモコウ,オミナエシ,リンドウなどなど.こうした草地の園芸資源の多くは現在では絶滅が危惧されているが,かつて,ご先祖様のお墓のお供えとして地元庶民に利用されていたものもある.見かけは外国産の派手な色の花と比べるとやや地味ではあるが,日本人にとって観賞価値は十分高く,こうした草花を愛でる山野草愛好家は日本中にたくさんいる.しかしながら,わが国の園芸産業全体としては,外国産の資源に頼る部分が依然として大きく,国内園芸資源を生産・普及させ,それを保全活動に還元する循環型の取り組みはほとんどみられない.
そこで,阿蘇地域ならではの草地園芸資源を単に保全するだけではなく,保全に成功した資源ストックをベースとし,地元資源を活用したこれまでにない大規模園芸生産を行う.そしてその売上金の一部を,環境創造舎がプロデュースした九州大吟醸の様に,草地園芸資源の保全活動に回すという仕組みを作ってみてはどうだろう.切り花だけでなく種や苗を販売をすれば,生産コストが安いし,育てる楽しみを山野草愛好家へ供給することができる.それが阿蘇地域にしかみられないハナシノブやヤツシロソウのような種類となれば,環境レンジャーを悩ませている山野草の盗掘を抑制する効果も期待できるだろう.また,ぶどう狩りができる果樹園のように,(保全還元金を含む)いくらかのお金を払わせて野摘みを許す草地を創ってもよいかもしれない.園芸産業の技術を活かしたアイデアはいくらでも出てくると思う.
この私の意見の背景には,勉強会に同席した,環境保全稲作を営むお百姓さんであるUさんの「単に草資源さえ保全すれば良いというのでなく,草地の維持に関わる生産者(農家)を育み,活力を与えることにも効果を発揮する直接支払いの仕組みが必要だ」という意見がある.
研究会終了後,農水省の若い研究者から,私と同じ視点で草地の野草資源の活用と保全について考えていたと,挨拶をされた.こうした出会いがあったことは私にとって収穫だった.阿蘇・久住の草地の園芸資源については以前から興味を持っていたが,もしかすると何らかの形で関わる機会が訪れるかもしれない.