エヴィデンスとエクスペリエンス


イタリアレストランTeshimaで開催されたふくおか大地といのちの会設立のつどいへ。


本会の創始者である吉田俊道さんが佐世保から駆けつけられて、基調講演をされた。吉田さんのお話は、行橋で聞いて以来、二回目である。


吉田さんの農と食の理論はこうだ。


生き物は微生物のちからによってすべて土に帰る。
そのおかげで土が元気になる。
元気な土で育てた作物は生命力が強い。
だから栄養価も高いし、病気にもつよい。
自然の状態で農薬に頼らず栽培できる。
生命力が一番強い部分を捨てずに元気野菜を丸ごと食べれば身体が元気になる。
低体温が解消されて、集中力が増すし、病気にかかりにくくなる。


つまり、自然生態系から切り離されてひ弱になってしまった、土、作物、人間を元の循環に還すことによって、それぞれが本来の生命力を発揮できるということだ。この視点は、吉田さん自身がよく言及される“風邪の谷のナウシカ”の世界観とオーバーラップする。


吉田さんは、自ら元気野菜作りを実践し、理論どおりの結果を出して来られた。自らの体験に基づくお話しは、よどみが無く、説得力がある。


この日、栽培法の違うナスの輪切りの腐り方の違いを実際に見せてくださった。生ゴミ循環栽培法で育てたナスが青々としているのに、別の栽培法で育てたナスが茶色くなって腐っている。「スゴ〜い!」と参加者たちが驚嘆する。


しかし、そういうことを目の当たりにしても、根拠がなければ話しに乗れないという人たちが世の中にはいる。「野菜をまるごと食べて低体温が解消されたと言われても、その両者の因果関係を証明する科学的根拠がないので……。」と言われたこともあったそうだ。


「目の前でそういうことが起こっているのに、エヴィデンス(Evidence)がなければどうしようもないと言うんですよ!特に専門家たちはです!!」と声を大きくして言う吉田さん。会場からも専門家に対する不満がチラホラ。


それをすぐ横で聞いていた私は、自己紹介のときにこう言った。
九州大学農学部のひらまつです。エヴィデンスを大切にしている研究者です。」
参加者たち、爆笑。


「でも、こういう場所に出てきているということは、エクスペリエンス(Experience)も大切にしている人間でもあります。エヴィデンスもエクスペリエンスも大切にしている専門家としてこれからもよろしくお付き合い下さい。」


大切なことは、信頼と体験。
私は、昨年、幼稚園児とその親たちへ熱心に話す吉田さんを見てから、吉田さんが子どもたちの未来を真剣に考えている人だと感じた。そして、幼児でも挑戦できる生ゴミ循環農法に子どもたちと挑戦してみたいと思った。作った野菜がほんとうに元気なのかを確かめたいし、子どもたちを元気にしてくれるのかを確かめてみたい。証拠がなくても、個人としてやれることをやり、体験を積み重ねれば、頭で考えるだけでは見えなかった何かが見えて来るかもしれない。


どうやら校長先生から頂いた学校菜園、使う時が来たようだ。