小さな命の輝き


小学校は夏休みへと突入。


栽培委員の生徒たちに任せていた花壇(パイヨンビオトープ)や元気野菜園の水やりのため、毎朝、小学校へと出かけることにした。


夏休みの校庭は、いつもと違って子どもたちの賑やかな声はまったくなく、とても静かだ。
鳥や蝉の鳴き声しか聞こえない。
灌水して葉に着いた水滴が清々しく、こころなしか植物が喜んでいるように見える。


そんな気分でハーブ類の手入れをしていたとき、パセリの葉面に薄黄色のキャビアのようのな球体を見つけた。


「あっ、卵!」


キアゲハの卵だろうか。
慌てて車へカメラとマクロレンズを取り帰り、再び花壇へと戻って卵を接写する。
卵が非常に小さいので、手ブレしてなかなか良い映像が得られない。
肘をついて地面に這いつくばるようにして、息を殺しながら撮影に集中する。


その時だった。
ハタハタハタ……と団扇を仰いで風を起こすような、小さな、でもハッキリとした音がどこからともなく聞こえてきた。
「何だろう」と不思議に思ってファインダーから目を外すと、目前のパセリの葉の上で軽やかに舞い踊る団扇の主が私の視界に飛び込んできた。


「キアゲハ!」


その距離、およそ20cm。
とっさにレンズをキアゲハに向けた。
すると、キアゲハもまさか至近距離に大きな動物が居たとは思わなかったらしく、
着陸態勢から一転、一気に急上昇し、
数m先へと一目散に遠ざかっていった。


子どもたちの居ない学校で、命のリレーは黙々と営まれている。