修学旅行で大学に行く理由 〜 南島原市立口之津小大野校長(新聞記事)

今週10月5日の口之津小児童の九大来訪を、ザビエルひろしさんが記事にしてくださいました。

聞きたい:講義、弁当作り…「人間体験」
〜 修学旅行で大学に行く理由は(長崎県南島原市口之津小校長 大野義満さん)


小学6年時に行われる修学旅行は、児童にとって最大の楽しみの一つ。かつは観光地めぐりが主だったが、最近では工場見学など社会科的要素を持たせたプログラムが増える中、長崎県南島原市口之津小学校の児童37名は10月5日、九州大学の伊都キャンパス(福岡市西区など)を訪問。大学の講義を受講したのち、自らこしらえた弁当を持参して食べる「子どもがつくる“弁当の日”」を、学生とともに行う。ユニークな修学旅行を企画した大野義満校長に聞いた(佐藤弘)


ー訪問のきっかけは。
「本校では昨年から、歯科医師や内科医など、一流ゲストテーチャーを招いた食育授業を行い、『聞く力』『発表する力』を養ってきた。そのつながりで九州大学を訪問しようという担任の提案があった。常日頃から、教室での学習も大事だが、体験的な授業が最も児童の身になると思い、賛成した」「前例がなくても、教育目標の達成に役立つものなら、なんでもチャレンジしてみればよい。子どもはもちろん、教える教師側にとっても刺激になる」


ー大学で何をするのか。
「九大は、箱崎から伊都にキャンパスを移す際、生物多様性に配慮した移転を行った。なぜ、生物多様性を守ることが私たちの命の守ることにつながるのか。大学の教養課程で『いのちの授業』という対話型授業を行う農学研究院の比良松道一助教の講義を受講してから、キャンパス内の生物多様性保全ゾーンを案内してもらう」「本校では昨年から、“弁当の日”にも取り組んでいる。昼食は、『おふくろの味』をテーマに、授業で学んだかむことの大切さ、野菜の働きなどを考えたメニューの弁当を持参。大学生と語り合いながら一緒に食べる。また、人に伝えるプレゼンテーション能力を高める取り組みを意欲的に展開しており、そこで培った成果を大学生に見てもらう計画だ」


ー学生と交流する意義は。
口之津は校区に小、中学校が一つでみんな顔見知り。しかし、小学校から中学校に進学したとき、中学校に戸惑い”中1ギャップ”に陥る子もいる。それを防ぐためにも口之津では小中連携を行っているが、要はいろんな所に出かけ、いろんな人に会うことだと思う。出会いによって新たな自分も発見できる」「大学という未知の場所に行くことで、子どもは6年後の自分の姿も想像できやすくなる。こうした『人間体験』の場が、子ども等の成長にプラスになると信じている」


ー意義ある修学旅行になりそうだ。
「今、子どもたちの体験が激減している。口之津のような自然に恵まれた地域でも、外で遊んでいる子どもは実に少ない。習いごとや塾、ゲームなど、集団遊びができない傾向は、都会と変わらない。だから、教師には授業の中で、体験的な活動を仕組んでほしいと要望している。それが、子どもの生きる力、自立への基礎を育むと思うからだ」「子どもは特設授業が大好きだが、はみ出すばかりでは、単なる“イベント”で終わっていまう危険性がある。その点、家庭科の授業の一環として、栄養職員も授業に入って行う『自分の弁当作り』は、教科書にはない創造型授業だが、学習指導要領に沿っている。実生活に役立っていると、家庭からも喜ばれているこの実践が、大学という舞台でやれる。子どもも私たちも教師も楽しみにしている」
西日本新聞2011年9月30日朝刊)