食育の成果学生に発表

  • 修学旅行で九大訪問(長崎県口之津小)
  • 自作の弁当持ち寄り交流も
  • 知識と実線に感嘆の声


総合的な学習で食や健康を学んでいる小学生が九州大学を訪ね、学生たちの前でその成果を発表したのち、手づくり弁当で学生と交流するー。こんなユニークな修学旅行が5日、福岡市西区の九大伊都キャンパスで行われた。自分たちの近未来の姿見た児童と、食生活が乱れがちな学生たちとの遭遇は、これからの人生を考える意味で、お互い大きな刺激になったようだ(佐藤弘)


西日本新聞10月23日朝刊)


  • 中庭でプレゼン

真新しい、アカデミックな建物が並ぶ伊都キャンパスの中庭。長崎県南島原市口之津小学校の6年生37人と、九大大学院農学研究院の比良松道一助教(46)の「いのちの授業」を受講する学生約40人が対面、あいさつを交わした。
「建物をバックにして中庭でやろう。時間が押しているから10分で」
同小の福田泰三教諭(44)の声に、てきぱきと位置に着く児童たち。
「では、今から始めまーす」。中庭に響き渡るリーダーのかけ声で、児童の発表(プレゼンテーション)が始まった。
朝食をとることの意義に始まり、免疫力を上げる食べ物、みそ汁の効用…。児童たちは模造紙や画用紙に描いた絵を手に、入れ代わり立ち代わり、身ぶり手ぶりを交え、授業で学んだ知識を学生側に伝えていく。
このあたりまでは余裕で聴いていた学生たち。だが、児童らの発表が旬か、旬ではない時期かによって野菜の栄養価が違うこと、野菜の皮やへたの部分にこそ重要な栄養素が含まれていることなど、学校の教科書では教えない分野に突入すると、その表情が変わった。
発表の締めは、同小で最も力を入れている「健口教育」。不規則な食生活で陥りがちな便秘や肌荒れが、よく嚙むことによって改善すること。そして、その実践例として、よく嚙まないと食べにくいレンコンを入れたハンバーグや、皮ごと調理で作った肉じゃがなど、自ら手作りした料理を見せると、「えー、そうだったの」「この子ら、すげー」。そんな声が漏れ聞こえてきた。
「食によって健康を手に入れる方法を学びました。どんなに忙しくても必ず朝食をとることが重要であること、みそ汁に便秘予防、美肌効果、老化防止、コレステロール抑制など、さまざまな効果があることを知って驚きました。また、噛むだけで、肥満防止効果があること。驚きました」(学生の感想)

  • 反応してくれた

2年前から、新聞記事などを使い、食や農から自分や家族の健康を考え、それを周囲にわかりやすく伝える学習に取り組む同小。九大で講演した経験がある福田教諭の発案で実現したこの修学旅行は、その成果を人前で発表できる貴重な場だった。
「九大生が私の話の一つ一つに返事やあいづちを打ってくれました。反応してもらうと、緊張がほぐせるということを学びました」(児童の感想)
プレゼンの次は、お互いの弁当を持ち寄って食べる?弁当の日?交流会。中庭には児童と学生でつくるいくつもの輪ができ、弁当やおかずを交換し合った。
修学旅行の朝にもかかわらず、早起きして作った児童の弁当。その出来に、学生たちは驚きを隠せなかった。
「彼らは、自分のお弁当と皆で食べる分を作っていました。一品作るだけでも相当時間がかかるのに、どれくらい時間がかかったのだろうかと思って聞いてみると、前日から作っていたといいます。親の手を借りずに、一人で作ったそうです。小学生のころといえば、私は何をするにしても親に手伝ってもらったり、確認してもらったりしていました。一方で彼らは、それを全部自力でやりきっていました」(学生の感想)
一方、児童の感想は−。
「九大生に朝食のことを聞いたら、新聞記事や本の通り、朝食抜きだったり、コンビニばかりとか言っていました。今、自分で食事を作れることの幸せを感じました」
「九大生は、肉や柔らかいものを食べているからもしかして便秘気味なのかなと思いました」
「弁当を食べているとき、九大生が『自分も小学生の頃、作っておけばよかった』と言っていました。私はそのとき、自分がしていることが本当によかったと思いました」
担任の上野一歩講師(30)は、「学生が反応してくれたので、児童も生き生きとしていた」と感謝する。

  • 負けておられぬ

比良松助教が担当する「いのちの授業」は、主に1年生を対象にした全学教育科目。研究や専門に偏りがちな大学の講義の中で、生きることを医や食、農、環境など、さまざまな切り口から学生たちに体験を交えて考えさせる内容だ。
「入学したとたんに眠ってしまいがちな学生の意欲と能力をどう再燃させるか。口之津小学校との交流会は、渡りに船でした」と比良松助教は言う。
学生たちの感想−。
「あんな小さな小学生がとても手の込んだ弁当を作っていて、私もボケッとしている場合ではないなと感じました」
「人に頼っているといつまでも身につかないけれど、一度、自分一人でやってみれば、必然的に何度も調べたり確認したりすることで、あっという間に身についてしまうものだと思います。だから、小学生のこの時期に、一人でやることを経験するのは、すごく良いことではないかと思いました。彼らの熱意を見習って、私も家事や料理など、自力でできることを増やしていきたいと思います」

  • やる気引き出す

児童らは、比良松助教の案内で、伊都キャンパスの森(生物多様性ゾーン)を散策。九大が箱崎キャンパスから移転する際、地元の自然を損なわずに保全するため、土ごと移植するなど、いかに気を配ったかなどの説明を受けた。小学生には難しいと思われる「生物多様性」の概念もその中にあったが、「命とは流れのようなものだという意見も、ぼくたちが吐いている二酸化炭素(CO2)を植物が使い、小動物が使うという多様性ゾーンを見たら納得できると思う」(児童の作文)というように、しっかり受け止められていた。
「前向きな姿勢で、主体的にかかわることで理解できたのだろう。修学旅行の大学訪問は初めての試みだったが、子どもらのやる気を見事に引き出した」と、大野義満校長は総括する。
帰りのバスの中で、福田教諭が児童に尋ねた。
「いろんな所に行ったけど、どこが一番楽しかった?」
「九大!」
勢いよく皆の手が挙がった。