新しい九大「いのちの授業」


受けなければならない授業はたくさんあるが、受けたくなる授業は少ない。


大学生なら皆そう思っているのではないだろうか。私も学生時代はそうだった。そのような学生たちの残念な気持を少しでも減らしたいと、受講生も講師も共に成長する授業を目指して4年目。九大全学教育「いのちの授業」は今年も新たな挑戦を試みる。


昨年、受講希望者の三分の二の学生に泣く泣く聴講を諦めてもらったという経緯があり、今期は授業枠を少人数セミナーから総合科目へと変更し、受講定員を倍の50名に増やした。


だが、「いのちの授業」の要のひとつは課外実習による現場体験。もし、従来どおり少なくとも2回の課外実習を受講生に課すとなると、20名ずつのグループに分けても少なくとも5回の実習を土日祝日に実施しなければならない。それを私一人でこなすのは正直に言って結構厳しい。


そこで「いのちの授業」を巣立った先輩学生たちの力を借りることにした。「いのちの授業」で単位を修得した学生の中には、糸島地域の農家に泊まり込んで農作業を手伝いながら農業の勉強をしている人たちがいる。彼らに農家実習を企画してもらい、それに新一年生を引率してもらうように依頼したのだ。


実は、数年前、農学部に所属する学生が同世代の学生に対して農学部での授業に関するアンケートを実施したことがある。それによると、91%が農業を大切だと思っているにも関わらず、45%は学部の勉強や研究が実際の農業に役立っていないと感じていると言う。そういう問題意識を先輩から受け継ぎ、大学の授業を改善したいと考えている現役学生が私のところへ来てこう言った。


「学生が受けたいと思う授業を私たちで作ることはできないのですか?」


岡山大学には学生発案型授業というのがある。学生・教職員教育改善専門委員会の学生委員が主体となり,学生の視点で新しい授業科目の提案からシラバス作成,成績評価の方法まで教員と一緒に授業を創作する。これまでに「大学授業改善論」「ドラえもんの科学」「知ってるつもり?コンビニ」「知らなきゃやばい、大人のマナー」などユニークな8講義が実施されている。


昨年、この岡山大学の学生発案型授業のひとつ「君は頭が良くなりたいか〜発信力〜」の一コマを担当する機会を頂き、受講生たちの学習意欲の高さを目の当たりにした私は、九大でもそういう授業の企画に携わりたいと思った。しかし、残念ながら、今のところ九大にそういう仕組みはない。


そこで、農業をもっとディープに学ぶ授業を開講したいと言う学生の願いをできるだけ受け入れ、「いのちの授業」の一部を担当してもらうことにしたのだ。先輩学生たちは、農業実習の他、通常授業の中で、医、食、農をテーマとしたグループ対話形式の授業のナビゲーター役を6コマ務める予定だ。


さらに、いのちの授業では、医、食、農に関わる諸問題の最前線で活躍される方々をゲスト講師としてお招きし、受講生たちが、将来、社会に貢献しながら幸せな人生を送る上で大切な話題をご提供頂く。また、公募で選ばれたゲスト社会人も授業に加わり、受講生と対話しながら共に学びを深めていく。


来週17日(水)からいよいよスタートする新しい「いのちの授業」が、たくさんの人に受けてもらえますように。


写真は「農」の講義で有機農業の話題を提供下さる吉田俊道氏。