九大「いのちの授業」特別講義


昨日、農の講義:「広がれ!菌ちゃん野菜〜命に支えられ、命を支える農業を目指して」と題して、吉田俊道さん(有機農家)にお話を頂いた。


化学肥料と農薬がなければ野菜は育たないのか。
無農薬野菜はいつもムシ食いだらけなのか。
ムシが食べる野菜は美味しいのか?


吉田さんのお話には、ものごとを深く探究するピュアな心がある人でなければ、ついていけないかもしれない。最初に吉田さんのお話を聴いた私もそうだった。



人の言うことを鵜呑みせず、「そんなことあるわけがない」と、まず疑ってかかるのが科学者。でも、その科学者には二通りあると吉田さんは言う。


「そんなこと理論的にはあり得ない。たまたま、そうなったのだ」と既知の情報だけで片付けてしまう人。一方で「まず、ほんとうにそうなのか自分で確かめてみよう」と確認する人。


幸い、私は後者になることができた。吉田さんのニンジンを食べたからだ。あの衝撃的な味わいは今でも忘れない。


「こんなニンジン、食べたことない」


昨日は、吉田さんが育てたキュウリと市販のキュウリを、前列に座っていた4人の受講生が、どちらのキュウリかを知らせられずに食べ比べた。「どっちが美味しい?」と訊かれると、全員が吉田さんのキュウリに手を挙げた。「味が濃い」と学生が言った。



笑いも交えた菌ちゃん野菜のはなしは、やがて、ナウシカプロジェクトのお話へ。社会人ゲスト約20名も加わった満席の教室の空気がピンと張りつめていく。


腐海の木々は人間が汚してきたこの世界を綺麗にするために生まれてきたの。大地の毒を体に取り込んで、綺麗な結晶にしてから、死んで砂になっていくんだわ。この地下の空洞はそうしてできたの。蟲たちはその森を守っている。』


農業現場では、農薬を使えば使うほど、それを超える病害虫や雑草が出現する。それは、医療現場が抱える問題と似ている。私たちは私たち以外の命を全滅させることがほんとうにできるのか。その時は、私たちも全滅するのではないか。


『汚れているのは土なんです。この谷の土ですら、汚れているんです。なぜ…誰が世界をこんな風にしてしまったのでしょう…』
『許してなんて言えないよね。ひどすぎるよね。』


「これからは『競争』でなく『共生』の時代。謙虚で優しい心で未来を切り開いてください」という吉田さんの言葉に励まされた学生も少なくなかっただろう。


講義の最後。吉田さんは、映画「もののけ姫」の終盤のワンシーンを紹介しながら受講生たちに宿題を出した。


『シシ神は森の守り神ではないのか!』
『シシ神は生命を与えもし 奪いもする。そんな事も忘れてしまったのか 猪ども!』


武器となる鉄を作るために森を使い尽くす人間に敵意をむき出しにするイノシシたちと、主人公サン(人間の女性)の育ての親であるヤマイヌ・モロとの間で交わされた会話だ。


「このシシ神。私たちの棲む世界に存在するもので例えるなら、それはいったい何なのか?考えてみて下さい。」


さて、受講生たちからどんな回答があるのか。
楽しみだ。