アイランド花どんたく 第3話 青いバラ

ハカタユリを展示している第3展示室を出ると右手に特別展示室の入り口がある.ここでは,このアイランド花どんたくの目玉「青いバラ」が展示されている.青いバラは日本を代表する酒造メーカー,サントリーが遺伝子組み換え技術を駆使し,14年の歳月をかけて育成した力作である.開会前日の内覧会であるにもかかわらず入り口に行列ができており,注目度の高さが伺える.
入り口で配布されるパンフレットにはその青いバラの写真(アイランド花どんたくのHPにある下の写真とよく似ている)が掲載されている.真っ青とは言えないが「薄い水色」と言えるような色合いであり,これまでに私が見てきたバラにはない花の色だ.期待が高まる.

20分ほど待たされようやく案内係がいる部屋に入れられる.そこで青いバラの研究開発の歴史に関するプロモーション映像を見せられた.ハカタユリ同様,プロジェクトX風の編集がされているが,中山エミリさんがプレゼンテーターであったり,ナレーションがTVでよく耳にするナレーターの声であったりと,こちらの方がより制作費がかかっているのが分かる.そのへんはさすが大企業だ.
プロモーション映像では,まず,英語「Blue Rose青いバラ)」が「不可能」を意味すると解説し,100年以上におよぶバラの品種改良の歴史のおける偉業を成し遂げたことをアピールする.その後,別の植物の青い色素(デルフィニジン)の遺伝子をバラの遺伝子に取り込み,花弁内の青い色素がほぼ100%となる研究開発過程が3分ほどで簡単に紹介される.
そして,いよいよご対面である.
案内係の女性が行儀よく隣の展示室へ見物客を招き入れる.パンフレットの写真とプロモーション映像で学習「された」我々の期待感が最も高まった瞬間だった.列の後方から展示室の入り口に向かった私は,先に入場した見物客から「ほ〜!」とか「わ〜!」など感嘆の声が上がると思っていた.
しかし・・・いっこうにそのような声は聞かれなかった.
ガラスケースの中に展示されている「青い」バラは切り花の状態でガラス瓶に差してあり,その数わずか5本.少し葉がしおれかかっているようなものもある.その元気のなさと先ほど見たハカタユリの元気な姿との落差が大きすぎる.
しかも花の色がパフンレッとの写真のものと明らかに異なる.私の目からは青とは言い難く,ひいき目に見ても「淡い青がかった紫」(昨年,報道発表された下の写真にそっくりの色)だった.

今回の展示では撮影を禁止していることから展示者の自信のなさがうかがえる.「裏切られた」という感じだった.他の見物客もそう思ったのだろう.大部分の人がほとん無言で退出していくのが印象的だった.
この落胆した気持ちは,地域の古いお祭りで,ろくろ首が見れるよという呼び込みに惑わされて見世物小屋に入り,私は何を期待していたんだろうと自己反省しながら出てくる時の気持ちとよく似ている.
バラになかった青い色素を100%近く蓄積させるまでの研究者の努力は確かに大変であっただろう.しかし,「このバラは青色です」とあの手この手で主張しなければ青色だと思ってもらえないバラは,青いバラとは言えないのではないだろうか.翌日の新聞にはあくまで「青いバラ」と紹介されている.まるで裸の王様のようだ.
昨年6月末,青いバラが朝のTVニュースで放映されているのを見て娘ははっきりと言った.
「青じゃないやん」
子供は自分の気持ちに正直である.