マンション建設


人口10万人の地方自治体のとある場所に突然マンションが建つことになりました。
マンション建設予定地の南側には小さな河川が横切り、その向こうには水田が広がっています。
マンションは高さが50m近くもある15階建て。
周辺にそのような高い建物はひとつもありません。
マンション上階からの眺めはきっとすばらしいことでしょう。


一方、そのマンションの北側には低層住宅や低層アパートが広がっています。
マンションが建てば、それまで見えていた田園風景はほとんど見えなくなります。
冬のある時期にはマンションの日陰になってしまう家もあります。


北側地域に住むほとんどの人は、できればもっと低いマンションにして欲しいと言います。
マンションを建てる人たちは、それでは採算がとれないので計画どおりに建てたいと言います。


もしあなたがマンション北側の低層住宅地に家を構えていたら、どうしますか?
もしあなたがマンションを購入する予定だったら、この物件をどう思いますか?


現行法律ではマンション建設には何の問題もないので、自治体の担当課は建築許可を出しました。
建築許可を受けたマンション建設は周辺の住民への説明がなくとも着工できます。
北側住民の気持ちが誰にも顧みられることはありません。
マンション住民がそんな人たちが周辺にいることを知る由はありません。
今の日本ではそんなことがどこでも普通に起こっています。


「住民の意思が反映されない地域開発をそのまま放っておいていいの?」
「『市民のみなさんとの対話を大切にし、積極的に意見を聴きながら十分に議論を深め、市民のみなさんと一緒にまちづくりを推進します』って市長も言っているけれど、なんかチグハグだよね。」


そう思った北側住民数名は、自治体が作った『建築紛争の予防及び調整に関する条例』に則り、市長のあっせんによるマンション施工主との話し合いの場を持つことにしました。


「私たちが未来に残したい地域環境って何だろう」


そんなささやかなメッセージを込めて。