イタリア旅行記〜2


早朝、ジェノヴァを列車で発つ。
途中、世界遺産に登録された美しい景勝の海岸線を車窓から眺めながら南下。
15年前、イスラエルのビーチで泳いで以来、再び拝めた地中海。
エメラルドブルーの海と断崖に張り付くようにして所狭しと並ぶレンガ色の屋根と漆喰の壁で統一された家々のコントラストが美しい。
列車の旅の醍醐味だ。


ただ、こちらの列車は日本の様にはいかない事が多い。
例えば、乗降したければドアは自分でボタン押すかノブを引っぱって開けなければならない。
通路はスーツケースを引っぱって歩くには狭すぎる。


それから、次の到着駅のアナウンスも日本の列車のように頻繁にはされない。
あったとしてもイタリア語でノイズが大きいのでよくわからない。
だから、降りる駅は自分で気をつけておかなければならない。
降りるひとつ前の駅名を乗車前にチェックしておけば良いといつも後から思うが、細かいことをあまり気にしない私は実行した試しがない。
今日も、そろそろ降りる駅かなという頃に、
いつもやっているように「次はピサ中央駅か」と周辺の人に私は尋ねまわった。


すると隣の通路座席にずっと座っていた女性が丁寧に反応してくれた。
ブロンドの髪とスラッとした高い鼻の美しい容姿を持ち、細身の若いイタリア人女性だ。
若いイタリア人男性2名と大きなスーツケースを抱えて途中から同じ車両に乗車してきた。
グループで旅行をしているようだった。


彼女が私の隣に座ってからというもの、私のことが気になるらしく、しばしば目が合っていた。
だからだろうか、私の問いかけに自分では分からなくても、連れの二名の男性にも親切に訊いてくれた。
しばらくして、イタリア語で男性の一人が私に語りかけてくれる。
分からないので「次はピサ中央駅?」と通じるはずのない英語で訊き直すと、大きく縦に首を振る。
どうやら次の駅らしい。


その後もそのイタリア人女性は私にとても親切だった。
私が降りる準備のためにスーツケースを乗降デッキに運ぼうとすると、手動ドアを開けたりしてくれた。
途中、一時的に同乗してきた、騒がしくて横柄なアメリカ人の若者グループとは大違いだ。
それは、国民性だろうか、それてとも親の躾だろうか。


そんなふうにあれこれと他愛のないことを考え、
ピサ駅に近づいた列車がスピードを落とし始めた頃、
それは起こった。
私の目前で、私に親切だったイタリア人女性と私に降りる駅を教えてくれたイタリア人男性のしっかりとした抱擁と長いキスが始まったのだ。
直視できない私は、窓の外に流れるピサ郊外の風景をぎこちなく眺めた。
もう一人のイタリア人男性も目をそらしている。
それが彼らのマナーらしい。
「イタリア人でなくてよかった。」
もう一人のイタリア人男性に同情しながら、私は心からそう思った。


こちらでは、列車が時刻どおりに運行しないのは日常茶飯事。
乗客の乗り継ぎのことなど配慮してくれない。
この日、10分以上遅れてジェノヴァを出発した列車は、
乗り継ぐ予定のフィレンツェ行き列車の出発時刻2分前にピサ中央駅へ滑り込んだ。
私は、
三人の愛すべきイタリア人の若者たちに手短にお礼を述べ、
重いスーツケースを引きずってすばやく階段を降り、そして昇り、
間一髪で隣のホームのフィレンツェ行きの列車に駆け込み乗車した。


フィレンツェサンタ・マリア・ノヴェッラ駅に到着し、徒歩で、香港空港で予約しておいた宿へ。
こちらのタクシー運転手は、東洋人とみると、料金メーターを割り増しモードにしたりして、通常よりも高い料金をだまし取ろうとするのでどうも好きになれない。だから多少距離があっても歩ける距離なら歩くようにした。歩く方がすぐに道を覚える。


夕食は伝統的なトスカーナ料理を頂けるトラットリア・アル・トレビオへ。


トスカーナ産サラミとハム、チキンレバーペースト和えのカナッペ付

フッジーリ(ねじねじパスタとでも言えばよいのか)のラビットソース和え(ほんとうにウサギなのかは不明)

リボッリータ(黒キャベツ入りの野菜煮込みスープ)

それに赤ワイン・キャンティ・クラシコ・ノッゾールのハーフボトル


今日も、食べ過ぎ、飲み過ぎ。
おやすみなさい。