イタリア旅行記〜4


昨夜もそうだったが、夜中の2時に目が覚めてしまった。
時差ぼけというよりも、早寝のせいだろう。
寝過ぎても時間がもったいないので、朝までいろいろとたまっている仕事をした。


今日は次の街への移動日。
朝食をゆっくりといただき、出発時刻の午後3時までの待ち時間を有効に使うため、スーツケースをフロントに預け街に繰り出した。


フィレンツェにあるのは高級ブランドファッションのお店だけではない。
修道僧が始めたオーガニックコスメや皮加工職人が作る革製品、金属加工職人が作るアクセサリーなど、
ルネッサンス時代、あるいはそれ以前から脈々と受け継がれてきた、優れた工芸品のショップや工房が多数ある。
そのいくつかを尋ね歩いた。


世界最古の薬局と言われる、サンタ・マリア・ノベッラ薬局。
木製のドアを開けて奥へ進むと、店舗とは言い難い、ゴシック様式の教会のような厳かな雰囲気の空間が広がる。
正面には接客用のカウンター、左右と背面、三面の壁には格調ある木製の戸棚。
その戸棚の奇麗に磨かれたガラス扉の向こうに、この店のオリジナル商品が整然とディスプレイされている。


1221年にドメニコ修道僧たちが自ら薬草や花を栽培し、修道院内の医務室で使用するための薬剤、香油、軟膏などを調合したのがこの店の起源と言われている。その時代から受け継がれた伝統技法によって、クオリティーの高いオーガニック原材料から作り続けられたこの店の商品は、現代でも世界中から高く評価され、買い求められている。


オーガニックコスメの原料となる植物は、オリーブ、アーモンド、オレンジ、レモン、ザクロ、ストロベリー、ミント、ラベンダー、ヴァニラ、オトギリソウ、スミレ、スズラン、クマツヅラ、バラ、ユリ、アイリス、カーネーション、くちなし、ミモザカモミールアロエ、ビャクダン、モクレン、蜂蜜……etc.。
使われる植物の数の多さが歴史を物語っている。


その後、別の薬局や皮加工職人の工房を数店巡り、昼食をとった。
今日は肉を食べたくなかった。


下ネタ話だが、イタリアへ来て日が経つごとに朝の通じが悪くなる。
日本では、毎朝、ご飯とみそ汁だけの粗食。
朝食をとると、腸が勝手に動いて排便したくなるのが常だった。
しかしこちらに来てから便が硬く、色も黒い。
肉ばかり食っているとこうなるという人体実験を自身でやっているようなものだ。


私たちの身体は毎日壊されながら作られている。


講演で私が良く使うフレーズだ。
イタリアに来て4日も経てば、そろそろ私の身体の一部はメイド・イン・イタリアになり始めているだろう。
日頃から食す素材を吟味し、メイド・イン・ジャパンを意識して作ってきた身体もこうして簡単に崩すことができる。
食べるとことの意味を改めて感じさせられる。


ラ・スパーダというトスカーナ料理のお店へ入った。
オーダーしたのは、アンチパストのトマトのモッツァレラチーズ和え、豆を煮込んだ伝統料理のファギオリ(インゲン豆の煮込み)。


出てきたのは………



確かに、トマトとモッツァレラだ。



ほんとうに豆だけの煮込みだ。しかも水煮。


量とサイズにはいつも意表をつかれる。
こちらのメニューにはそもそも写真がない。
写真がないので知らない人には料理が出てくるまでどんな姿かが想像がつかない。
写真入りでメニューを出せばきっと観光客には喜ばれるだろうと思うのだが……。
望みどおり野菜づくしだったが、さすがにこの量のマメ全部は食べれなかった。


午後3時半。
シンポジウムが開催される街ペッシャへ、フィレンツェを列車で発つ。
途中、結構強い雨が降ってきた。
いつものように、
降りるタイミングがよくわからなかったので、
デッキに立っていた女性に尋ねた。
幸運なことに彼女はシンポジウムへ出席予定のイタリア人だった。
小雨まじりの中、彼女は会場まで私に同行してくれた。
どんなに小さな親切でも旅人にはたいへん心強い。


シンポジウムの受付が終わると、ウェルカムガーデンパーティー
雨上がりの野外は半袖では震えるほど寒かった。
先ほどの雨はどうやら寒冷前線の通過だったのだろう。


研究室の仲間たちとシャンペンやワインを片手に、クロスチーニ(カナッペ)や野菜のフリット(てんぷら)を頂いた。
食事の中身はたいしたものではないが、やっぱり食事は大勢でテーブルを囲んでわいわい話しながら頂くに限る。
身体は震えながらも、心温まる時間に感謝。