イタリア旅行記〜10(最終回)


イタリアの市場、“メルカート”は、言わばイタリアの台所。
ローマとミラノでメルカートを散策した。


ローマで訪れた市場は、テルミニ駅からヴィットーリオ・エマヌエーレ2世広場へ向かって徒歩2〜3分の距離にある屋内常設市場。屋外からは市場であることが分かりにくいが、私が訪れた朝8時頃は、道路に停められた車から屋内へと野菜や肉の入ったカートを押して移動する人たちの流れからすぐ市場だとわかった。


ミラノで訪れた市場は2ヶ所。ひとつは、地下鉄1号線のワグナー駅を出てすぐの交差点にある常設市場。ここはテルミニ駅の常設市場ほど大きくないが、大きなレジ袋を下げた地元の買い物客で賑わっていた。もうひとつは、地下鉄2号線のサンタンゴスティーノ駅を出てすぐの仮設市場。インターネット情報によると火曜と土曜に設置される市場ということだが、ここもレジ袋を下げた人でごったがえしていた。


屋内市場だと2〜3坪くらい、仮設市場だとそれより小さなスペースの店舗が通路以外に隙間をほとんどつくらず並んでおり、野菜、穀類、肉、チーズ、魚介類、ピクルスなど、取り扱う品が店舗ごとに別れている。買い物をせずとも眺めているだけでも楽しめる。私はカメラを片手に、忙しそうに動く店の人たちに質問しながら写真を撮って廻った。


取材して気付いたこと。


1)野菜や果物の同じ品目でも種類が多用である。


例えばイタリア料理には欠かせないトマト。
形が多様である。




ナスの色や形も多様。




こちらは花を利用するズッキーニ。


こんな巨大なズッキーニ(表示はそうだけど、ほんとかなぁ?)もある。


つぶれたような形のモモもよく見かけた。


2)意外と多数の輸入農産物や海産物を扱っている。


この野菜はすべてバングラデシュ産。
8年の日本(品川と川崎)の飲食店に務めた経験のあるバングラデシュ人がそのように日本語で説明してくれた。








イタリア国内で豊富に生産されているレモンだが、アルゼンチンからの輸入ものを発見。


その他、スペイン産ナシとモモ、エジプト産ザクロ、インド産サボテンの実など、イタリアで栽培できそうな果物でも輸入物がたくさんある。




イタリア料理に使用する魚介類は、国内で水揚げされる地中海産だと勝手に思い込んでいた。
しかし、魚を売っているいろんな人に産地を尋ねると、外国産がたいへん多いのは驚きだった。
このイカはマレーシア産。

こちらのタイやスズキのような魚はギリシャ産。


イタリア料理で有名なこのテナガエビは北欧産。

こちらの種類の違うテナガエビはタイ産。


そこで気になって調べてみた。
イタリアの自給率


(推定値だが)62%(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A3%9F%E6%96%99%E8%87%AA%E7%B5%A6%E7%8E%87
この資料によれば、ヨーロッパではスイスやオランダに継ぐ低さのようだ。


食で評価されるイタリアも、日本のように多数の外国産食材に依存する現状があるようだ。


約2週間イタリアの旅。
私が実際に見て食したイタリア料理から、現代イタリアの食事情を垣間みることができた。


世界中から料理のクオリティーが高いと評価されてきたイタリア。
スローフードの発祥地イタリア。
そういうイタリアの食に対する私の期待は、ファストフードやレトルト食品の波に飲み込まれて行くイタリアの都会の現実を目の当たりにしたとき、もろくも崩れさっていった。
ひょっとしたら私がイタリアで頂いた料理にも外国産がかなり混じっていたのかもしれない。
イタリアも日本と同じような食の問題を抱えているのではないだろうか。

  1. 守る……消えてゆく恐れのある伝統的な食材や料理、質のよい食品、酒を守る。
  2. 教える……子供たちを含め、消費者に味の教育を進める。
  3. 支える……質のよい素材を提供する小生産者を守る。


これはスロフード協会の活動理念。


自国の農業や漁業は作り手だけで支えることはできない。
自国の産物を買い支える消費者が居てこそ、自国の農業や漁業がなりたつのである。
その消費者へ守るべきものを伝え続けることの大切さを改めて感じた旅となった。


自給力でなく“自求力”を高める教育。
私がこの2週間の旅で頂いたのは、イタリア料理の真髄の伏線。そう、帰国後の研究、講義、講演、そして執筆の活動のための新たな糧になったはずである。


またこの国を訪れたい。
イタリア料理の真髄を求めて。