酪農実習での学び_ Campus Life


今年度初めての小ゼミ野外実習は酪農体験。


糸島で“伊都物語”という、低温殺菌・ノンホモ牛乳と飲料ヨーグルトを生産する”糸島みるくぷらんと”に学生たちの実習の場を提供して頂いた。教員の私でさえ新鮮な現場の話に触れ、いろいろと考えた1日だった。学生たちの学びも大きかったようだ。


「輸入飼料が高くなっているので、苦労も多いのではないでしょうか?」


ちょっと意地悪かもしれなかったが、せっかくの機会なので苦労話も聞きたいと思い、私は酪農農家にそう質問した。時期によっては、高い餌代のために牛乳を売っても儲けがないこともあったと言う正直な答えを頂いた。酪農問題の核心に触れてしまったようだ。その方の話しでは、大手乳業メーカーが買い取る牛乳か伊都物語用の牛乳かにかかわらず、生産した牛乳は全量酪農組合に出荷される。酪農組合の方針により買い取り価格には差が生じないそうだ。


一方、伊都物語は、高品質を訴えたブランド戦略で小売価格を他社乳製品と差別化することにより、利益率を上げようと試みている。しかしながら実習で頂いた新聞記事からは、決して手放しで喜べない厳しい状況が見える。“ぷらんと”が小さく、生産量を伸ばしたくても1日で処理できる乳量は、せいぜい酪農家2件分の生産量。また、2002年から始まったヨーグルト飲料の販売量は安定しているものの、ノンホモ牛乳の一昨年の販売量は前年の三分の二に落ち込んだ。つまりは、現在の生産から販売までの仕組みのもとでは、スーパーで売られている名の知れた牛乳だろうが伊都物語だろうが、製品を製造する会社が消費量を増やすことが、酪農経営の安定に繋がるということになる。


ただ、仮に牛乳の国内消費量が伸びたとしても、酪農経営にはもっと根深い問題が付きまとう。今のような国外から輸入される濃厚飼料によって乳品質を高める飼育方法に依存していれば、結局、餌代負担が増える一方となり、薄利多売の利益追求に陥ってしまう。薄利多売の生産は飼料代の高騰、安売り激化など、不測の環境変化に弱い。それでは酪農家が真の意味で酪農経営の活路を見出したことにならないのかもしれない。しかも、今後、濃厚飼料の中で最も輸入量の多いトウモロコシはバイオ燃料としての期待が大きく、価格の高騰や輸出の制限に拍車がかかる可能性が高い。そんなことを考えると、結局、人間も牛も、自給率を高め国外の飼料に依存しない体質を作っていくことが、本当は重要なんだろうと思ったりする。


そんな話しを帰りのバスの中で今回の実習を企画したゴーシ舎長とやりとりし、帰宅する。朝が早かったので、西日本新聞の朝刊に目を通す。タイムリーなことに、1面の食卓の向こう側に飼料高騰にまつわる記事が。文末に書かれた酪農家の言葉に目が止まった。


「自給できる牧草以上は飼わない。」


新鮮で安全な牛乳を追求しつつ、身の丈の地域内自給に挑戦した結果、飼料高騰に影響されにくい経営を実現していると言う。いかに利益を生み出すかよりも、どんな哲学でやるかにこだわる方が、消費者の心を捉え、ひいては、安定的な経営に繋がるのかもしれない。